AIで銀行はどう変わる? 最新事例に見る未来の金融サービス
- セミナーインフォ担当者
- 3月31日
- 読了時間: 15分

金融業界はAI技術の急速な発展により大きな変革の時を迎えています。特に銀行業務においては、顧客体験の向上から業務効率化、さらには新たなビジネスモデルの創出まで、AIの活用領域は急速に拡大しています。本記事では、国内主要銀行のAI活用最前線をご紹介いたします。
1.銀行業界におけるAIの役割

銀行業界におけるAIの役割は、デジタル化が進む現代において、ますます重要性を増しています。AI技術の進化により、銀行は従来の業務を効率的に行うだけでなく、新たな価値を創出するのに役立っています。
また、AIはリスク管理の分野でも大きな役割を果たしてており、AIを活用することで、金融機関は不正取引の検出やクレジットリスクの評価をリアルタイムで行うことができ、金融犯罪の防止や与信判断の精度向上が可能となります。加えて、自然言語処理技術を利用したチャットボットの導入により、24時間365日、迅速かつ正確な顧客対応が可能となり、コールセンター業務の負担軽減にもつながっています。
このように、AIは銀行業界において、顧客体験の向上、業務の効率化、そして新たなビジネスチャンスの創出において、中心的な役割を担っています。今後もAIの活用が進むことで、銀行業界はさらに進化し続けることが予想されます。
2.銀行AI活用事例

(1)顧客体験向上
①チャットボットによる顧客対応の進化
AIを活用したチャットボットは、銀行業界における顧客対応を大きく進化させています。
従来のチャットボットは、事前に設定されたルールに基づいて応答するものが主流でしたが、最新のAIチャットボットは、自然言語処理(NLP)や機械学習(ML)の技術を活用することで、より複雑な顧客の問い合わせを理解し、人間のような自然な対話を通じて、パーソナライズされた情報提供や問題解決を24時間365日行うことが可能です。
例えば、三菱UFJ銀行はAIチャットボットを導入し、24時間体制での顧客対応を実現しています。これにより、顧客対応にかかる時間が大幅に短縮され、顧客からの問い合わせに即時対応できるため、顧客満足度の向上と顧客体験の向上が実現しています。
AIチャットボットの進化は、単に問い合わせ対応の自動化に留まりません。高度なAIチャットボットは、顧客の感情を分析し、より共感的な対応を行うことや、複雑な問題に対して、必要な情報を迅速に提供することで、顧客満足度を大幅に向上させています。
また、AIチャットボットは、新規顧客のオンボーディングプロセスを効率化し、ローン申請のサポート、不正行為の防止など、多岐にわたる用途で活用されています。
<参照>三菱UFJホームページ「チャットでのお問い合わせ」
②パーソナライズされた金融アドバイス
AIは、顧客一人ひとりのニーズに合わせた、高度にパーソナライズされた金融アドバイスの提供を可能にしています。
従来の金融アドバイスは、画一的なものであったり、担当者の経験や知識に依存する部分がありましたが、AIは膨大な顧客データ(取引履歴、貯蓄習慣、投資傾向、ライフステージなど)を瞬時に分析し、個々の顧客の財務目標やリスク許容度に合わせて、最適な投資戦略、貯蓄プラン、ローン商品などを提案することができます。
例えば、みずほ銀行は住宅ローンAI事前診断を提供しており、顧客はオンラインで手軽に住宅ローンの借入可能額や金利などを試算できます。また、AIが顧客の取引履歴、資産状況、ライフイベントを分析し、最適な金融商品や投資戦略を提案することで、顧客満足度が向上する事例も報告されています。
<参照>みずほ銀行ホームページ「住宅ローン AI事前診断」
③不正検知の高度化
銀行業界における不正検知の分野においても、その高度なデータ分析能力とパターン認識能力により、従来のシステムと比較して飛躍的な進化をもたらしています。
従来の不正検知システムは、事前に設定されたルールに基づいて異常な取引を検知するものが主流でしたが、AIを活用したシステムは、機械学習アルゴリズムを用いて、過去の膨大な取引データから不正なパターンを学習し、リアルタイムで異常な取引や行動を検知することが可能です。
例えば、三井住友銀行は過去の取引データを基に異常なパターンを検出し、リアルタイムで不正取引を予防するシステムを導入しています。
また、横浜銀行はNECの「AI不正・リスク検知サービス」を導入し、マネーロンダリングなどによる不正利用口座のモニタリング業務を高度化しています。
住信SBIネット銀行は、不正送金対策としてAIモニタリングシステムを自社開発し、不正取引の判断を高速・効率化しています。
AIによる不正検知システムは、従来のルールベースのシステムと比較して、より高い精度で不正を検知できるだけでなく、誤検知の数を減らすことも可能です。また、AIは、不正の手口が巧妙化する中で、新たな不正パターンを学習し、適応していく能力を持っているため、常に最新の脅威に対応することができます。
<参照>
三井住友銀行ホームページ「三井住友銀行のセキュリティ対策」「STOP!不正送金被害」
NECプレスリリース「NEC、横浜銀行に「AI不正・リスク検知サービス」を提供」
住信SBIネット銀行PR TIMES「自社AI(人工知能)技術を活用した不正送金対策モニタリングシステムの高度化について」
(2)銀行業務の効率化
①融資審査の自動化
AIは、銀行の融資審査プロセスを自動化し、大幅な効率化と迅速化を実現しています。
従来の融資審査は、申請書類の確認、信用情報の照会、担保評価など、多くの手作業を必要とし、時間とコストがかかるものでした。AIを活用することで、これらのプロセスを自動化し、審査スピードを大幅に向上させることが可能になります。
例えば、三菱総合研究所が提供する「審査AIサービス」は、金融機関のローン審査システムにAIモデルを連携させることで、審査の自動化を促進し、審査業務のDXを支援します。七十七銀行における導入事例では、住宅ローン審査の50%以上が人間の審査を介さずに自動かつリアルタイムで承認されることが期待されています。
AIによる融資審査の自動化は、審査スピードの向上だけでなく、審査精度の向上にも貢献します。AIは、従来の信用スコアリングに加えて、公共料金の支払い履歴やソーシャルメディアの活動など、より広範なデータを分析することで、より正確な信用評価を行うことができます。これにより、不良債権の発生を抑制し、銀行のリスク管理を強化することができます。
<参照>
三菱総合研究所プレスリリース「七十七銀行が三菱総合研究所「審査AIサービス」を実務に適用開始」
②リスク管理の高度化
AIは、銀行における信用リスク、市場リスク、オペレーショナルリスクといった様々なリスク管理の高度化に大きく貢献しています。
信用リスク管理において、AIは、融資審査の自動化で述べたように、より高度な信用評価モデルを構築し、不良債権の予測精度を向上させることで、銀行の損失を低減します。AIは、従来の信用スコアに加えて、顧客の取引履歴、支払いパターン、さらには非伝統的なデータ(ソーシャルメディアの活動など)を分析することで、より包括的なリスク評価を行うことができます。
市場リスク管理において、AIは、過去の市場データや経済指標を分析し、市場の変動を予測することで、銀行が投資戦略を調整し、損失を最小限に抑えることを支援します。AIアルゴリズムは、人間のアナリストが見落とす可能性のある微妙なパターンを検出し、より正確な市場リスク分析を可能にします。
オペレーショナルリスク管理において、AIは、銀行の内部プロセスにおける非効率性や潜在的なリスクを特定し、事故や不正行為の発生を予測することで、損失を未然に防ぐことを支援します。AIは、過去のインシデントデータや運用指標を分析し、リスクの高い領域を特定し、改善策を提案することができます。
③コンプライアンス対応の効率化
銀行業界は、マネーロンダリング対策(AML)、テロ資金供与対策(CFT)、顧客確認(KYC)、制裁リストのスクリーニング、規制報告など、多岐にわたるコンプライアンス要件への対応が求められています。AIは、これらのコンプライアンス対応業務を効率化し、精度を向上させる上で重要な役割を果たしています。
アンチマネーロンダリング(AML)において、AIは、大量の取引データをリアルタイムで分析し、不審なパターンや異常な活動を検知することで、マネーロンダリングのリスクを低減します。AIは、従来のルールベースのシステムでは検出が困難であった、複雑なマネーロンダリングの手口を特定することができます。伊予銀行は、国際送金におけるマネーロンダリング対策として、AIによるリアルタイムモニタリングで不正送金を未然に防ぐシステムを導入しています。
顧客確認(KYC)においては、顧客の身元確認プロセスを自動化し、効率化することで、顧客のオンボーディングを迅速かつ正確に行うことを可能にします。AIは、顔認識やOCR(光学文字認識)などの技術を活用して、ID文書の真正性を検証したり、顧客が提供した情報を様々なデータベースと照合したりすることで、なりすましや不正なアカウント開設を防止します。
規制報告においては、AIは、規制当局への報告書作成プロセスを自動化し、効率化することで、コンプライアンス担当者の負担を軽減します。AIは、必要なデータを自動的に収集し、検証し、規制要件に準拠した形式で報告書を作成することができます。
<参照>
(3)新規事業創出
①AIを活用した新しい金融商品・サービス開発
AIは、銀行業界における既存の業務プロセスを効率化するだけでなく、全く新しい金融商品やサービスの開発を促進する可能性を秘めています。
AIの高度なデータ分析能力と予測能力を活用することで、銀行は、顧客の潜在的なニーズを把握し、これまでには考えられなかったような、よりパーソナライズされた、より利便性の高い金融商品やサービスを提供できるようになります。
例えば、AIは、顧客の取引履歴やライフイベントを分析し、個々の顧客に最適な投資プランを提案したり、住宅ローンの借り換えのタイミングを予測したりすることができます。セブン銀行は、AI技術を活用した第4世代ATM「ATM+(プラス)」を導入し、顔認証技術やスマートフォンとの連携を強化することで、顧客の利便性を向上させています。
AIは、これまで銀行サービスを利用することが難しかった層へのアクセスを拡大する可能性も秘めています。例えば、AIを活用した信用評価モデルは、従来の信用履歴に加えて、公共料金の支払い履歴やオンラインでの活動など、より広範なデータを分析することで、信用履歴が少ない人や全くない人に対しても、より正確な信用評価を行うことができます。
<参照>セブン銀行ホームページ「ATM⁺」
3. 銀行がAIを導入するにあたっての課題

AIと人間の協働モデルの構築
銀行業界におけるAI導入の重要な課題の一つは、AIと人間がそれぞれの強みを活かし、効果的に協働するためのモデルを構築することです。
AIは、大量のデータを高速かつ正確に処理し、パターンを認識する能力に優れていますが、倫理的な判断や顧客との共感といった人間ならではの能力は持ち合わせていません。
AIと人間の協働モデルを構築するためには、まず、それぞれの役割を明確に定義する必要があります。
例えば、AIは、顧客からの簡単な問い合わせへの対応、データの分析、不正の疑いのある取引の検出といったルーチンワークやデータ集約的なタスクを担当し、人間は、より複雑な問題への対応、顧客との関係構築、戦略的な意思決定といった、高度な判断力や人間的なインタラクションが求められるタスクを担当するといった分担が考えられます。
AIと人間がスムーズに連携するためには、適切なコミュニケーションと情報共有の仕組みを構築することが重要です。
AIが分析したデータや検出した異常を、人間が理解しやすい形で提示したり、人間がAIに対して適切な指示やフィードバックを与えたりするためのインターフェースやプロトコルを整備する必要があります。
AIを活用する人材の育成も不可欠です。銀行の従業員は、AIの基本的な知識や使い方を習得するだけでなく、AIが出力した情報を批判的に評価し、人間の判断と組み合わせる能力を養う必要があります。企業は、従業員のスキルアップのためのトレーニングプログラムを提供したり、AIに関する専門知識を持つ人材を採用したりするなど、積極的に取り組む必要があります。
データ活用とプライバシー保護のバランス
銀行業界におけるAIの活用は、顧客の個人情報を含む大量のデータを前提としていますが、その一方で、データのプライバシー保護は、顧客からの信頼を維持し、規制要件を遵守するために不可欠な要素です。AIの導入にあたっては、データ活用によるメリットとプライバシー保護のバランスをどのように取るかが重要な課題となります。
この課題に対応するためには、まず、データの収集、保存、利用に関する明確なポリシーと手順を策定し、顧客に対して透明性の高い情報開示を行うことが重要です。顧客は、自身のデータがどのように収集され、何のために利用されるのかを理解し、同意を与える必要があります。
また、収集したデータのセキュリティを確保するための技術的な対策も不可欠です。データの暗号化、アクセス制御の強化、不正アクセスやデータ漏洩の監視など、多層的なセキュリティ対策を講じることで、顧客の個人情報を保護する必要があります。
さらに、AIモデルのトレーニングや運用においては、プライバシー保護に配慮した手法を採用することが重要です。例えば、個人を特定可能な情報を匿名化したり、統計的な特性を維持しながら元のデータを加工したりするなどの技術を活用することで、プライバシーを保護しながらAIの性能を維持することが可能になります。
GDPR(EU一般データ保護規則)やCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)といったデータプライバシーに関する規制を遵守することも、銀行にとって重要な課題です。これらの規制は、データの透明性、データ主体の権利、データのセキュリティなどについて、厳格な要件を定めており、銀行はこれらの要件を遵守するために、AIシステムの設計や運用を見直す必要があります。
テクノロジーとリスク管理の両輪での進化
AI技術は急速に進化しており、銀行がAIを活用してビジネス価値を創出するためには、テクノロジーの進化と並行して、リスク管理体制も継続的に進化させていく必要があります。
AI技術の進化は、より高度な不正検知、よりパーソナライズされた顧客体験、より効率的な業務プロセスを可能にする一方で、新たなリスクももたらします。
例えば、AIモデルの誤った判断、アルゴリズムの偏り、サイバー攻撃の高度化など、これまでには想定されていなかったリスクに対応するための新たなリスク管理体制を構築する必要があります。
このためには、まず、AIの導入と利用に関する明確なガバナンス体制を確立することが重要です。AIの責任者やAI倫理に関する委員会を設置し、AIの開発、導入、運用における倫理的な側面やリスクを監督する必要があります。
また、AIモデルのパフォーマンスを継続的に監視し、評価するための仕組みを構築することも重要です。AIモデルの精度が低下したり、予期せぬ偏りが生じたりした場合に、迅速に検知し、修正するためのプロセスを整備する必要があります。
さらに、AI技術の進化に対応するために、リスク管理の専門家も常に最新の知識やスキルを習得し、AIに関する理解を深める必要があります。テクノロジーとリスク管理の両方の専門知識を持つ人材を育成したり、外部の専門家と連携したりすることも有効な手段となります。
まとめ:銀行におけるAI活用の将来展望とITベンダーへの示唆

銀行業界におけるAIの活用は、今後ますます加速していくことが予想されます。テクノロジーの進化、社会の変化、そして顧客ニーズの変化を踏まえると、AIは銀行のビジネスモデル、顧客との関係、業務プロセスを根本的に変革する可能性を秘めています。
将来的には、AIは、より高度なパーソナライズされた金融サービスの提供、より洗練された不正検知とリスク管理、そしてこれまでには考えられなかったような革新的な金融商品やサービスの開発を可能にするでしょう。例えば、AIは、顧客のライフイベントや将来の目標を予測し、それに基づいた金融プランを自動的に提案したり、個々の顧客のニーズに合わせて金利や手数料を最適化したりすることが可能になるかもしれません。
このような将来展望を踏まえ、銀行のAI活用を支援するITベンダーに向けて、以下の3つの示唆を記載します。
人間とAIの協働を支援するソリューション AIの導入効果を最大化するためには、AIが人間の能力を補完し、両者が効果的に連携できるようなソリューションを提供する必要があります。例えば、AIが分析したデータや検出した異常を、人間の担当者が理解しやすい形で可視化するインターフェースや、人間がAIに対して指示やフィードバックを容易に行えるツールなどが考えられます。また、AIの判断根拠を説明可能にする技術(Explainable AI)の開発も重要となるでしょう。
データプライバシーとセキュリティを強化するソリューション 銀行は、顧客の機密性の高い個人情報を大量に扱っているため、データプライバシーとセキュリティの確保は最優先事項です。ITベンダーは、データの暗号化、匿名化、アクセス制御の強化など、プライバシー保護とセキュリティ対策を高度化するソリューションを提供する必要があります。また、GDPRやCCPAといったデータプライバシーに関する規制への対応を支援する機能も重要となるでしょう。
リスク管理とコンプライアンス対応を支援するAIソリューション AI技術の進化に伴い、銀行が直面するリスクも複雑化しています。ITベンダーは、不正検知、信用リスク管理、市場リスク管理、オペレーショナルリスク管理、そしてコンプライアンス対応といった、銀行の様々なリスク管理ニーズに対応できるAIソリューションを提供する必要があります。これらのソリューションは、最新のAI技術を活用し、変化する規制環境や新たなリスクに対応できるよう、継続的にアップデートされる必要があります。
セミナーインフォでは、金融機関向けにオフラインとオンライン開催のハイブリッド開催のイベントや会場開催に特化したイベントなど、様々なご要望にお応えできます。
AI・DX・データ利活用といったテーマカット型の協賛型イベント➤こちら
AI×金融をテーマにプライベートイベント開催を検討中なら➤こちら
#銀行 #AI