
金融業界は今、かつてない変革の時代を迎えています。デジタル技術の急速な進歩、顧客ニーズの多様化、そして規制環境の変化など、様々な要因が金融機関のビジネスモデルとマーケティング戦略に大きな影響を与えています。さらに、長期にわたる低金利環境からの脱却が進む中、金融機関は新たな課題に直面しています。
このような環境下で、金融機関がビジネスを成長させ、顧客との関係を強化するためには、革新的かつ効果的なマーケティング戦略が不可欠です。
本記事では、金融機関のマーケティングにおける最新トレンドを詳しく解説し、これらのトレンドがどのように業界を変革しているかを探ります。
1. DXの加速

DXは、もはや金融機関にとって必須の戦略です。顧客体験の向上、業務効率化、そして新たなビジネスモデルの創出など、DXは金融機関の競争力を強化する上で重要な役割を担っています。
オンラインバンキングの普及
オンラインバンキングは、顧客にとって利便性の高いサービスであり、金融機関にとってはコスト削減に繋がる重要なチャネルです。ユーザーフレンドリーなインターフェース、高度なセキュリティ対策、そして多様な機能を提供することで、顧客満足度を高めることができます。
モバイルアプリの重要性
スマートフォンの普及に伴い、モバイルアプリは顧客との重要な接点となっています。
残高照会、送金、投資取引など、様々な金融サービスをモバイルアプリで提供することで、顧客の利便性を高め、エンゲージメントを向上させることができます。パーソナライズされた通知や金融アドバイス機能なども、顧客体験を向上させる上で有効です。
AIとビッグデータの活用
顧客データ分析に基づくパーソナライズドマーケティング、不正検知、リスク管理など、様々な分野で活用されています。
AIを活用したチャットボットは、顧客からの問い合わせに24時間365日対応できるため、顧客満足度向上に貢献します。
2. パーソナライゼーションの進化

顧客一人ひとりに最適化されたサービスを提供するパーソナライゼーションは、金融マーケティングにおいてますます重要性を増しています。顧客データの統合と活用、リアルタイムマーケティング、そして予測分析によるニーズの先読みなど、高度なパーソナライゼーションを実現するための技術が進化しています。
顧客データの統合と活用
顧客の属性情報、取引履歴、Web閲覧履歴など、様々なデータを統合し、分析することで、顧客のニーズや行動を深く理解することができます。
この情報を基に、パーソナライズされた金融商品やサービスを提案することで、顧客満足度を高め、コンバージョン率を向上させることができます。
リアルタイムマーケティング
顧客の行動や状況に合わせて、リアルタイムに最適なメッセージを配信するリアルタイムマーケティングは、顧客エンゲージメントを高める上で非常に効果的です。
例えば、顧客がWebサイトで特定の金融商品を閲覧した場合、その商品に関する情報をプッシュ通知で配信するといったことが可能です。
予測分析によるニーズの先読み
AIを活用した予測分析は、顧客の将来のニーズを予測し、先回りして最適な商品やサービスを提案することを可能にします。
例えば、顧客のライフステージの変化を予測し、それに合わせた金融商品を提案することで、顧客の潜在的なニーズに応えることができます。
3. コンテンツマーケティングの重要性

顧客にとって価値のある情報を提供するコンテンツマーケティングは、金融機関の信頼性向上、ブランドイメージ向上、そしてリード獲得に繋がる重要な戦略です。
教育的コンテンツの提供
金融商品は複雑で分かりにくいものが多いため、顧客にとって理解しやすい教育的コンテンツを提供することが重要です。特に、金利環境の変化に関する情報は、顧客の投資判断に大きな影響を与えるため、正確で分かりやすい情報を提供する必要があります。
動画コンテンツの活用
動画コンテンツは、テキストよりも情報伝達力が高く、顧客エンゲージメントを高める上で効果的です。金融商品の解説動画、投資セミナーの動画配信など、様々な用途で活用することができます。
ソーシャルメディアを通じた情報発信
ソーシャルメディアは、顧客と直接コミュニケーションを取り、情報を発信するための重要なチャネルです。金融に関するニュースやTips、キャンペーン情報などを発信することで、顧客とのエンゲージメントを高めることができます。
4. オムニチャネル戦略の最適化

オンラインとオフラインのチャネルをシームレスに連携させるオムニチャネル戦略は、顧客に一貫したブランド体験を提供するために不可欠です。
シームレスな顧客体験の提供
ウェブサイト、モバイルアプリ、店舗、コールセンターなど、顧客がどのチャネルを利用しても、一貫したサービスを提供することで、顧客満足度を高めることができます。
例えば、Webサイトで資料請求をした顧客に、電話でフォローアップを行うといった連携が重要です。
オンラインとオフラインの融合
オンラインとオフラインのチャネルを融合させることで、顧客体験をさらに向上させることができます。
例えば、オンラインで住宅ローンの仮審査を行い、その後、店舗で担当者と詳細な相談を行うといった流れが考えられます。
チャットボットやAIアシスタントの活用
チャットボットやAIアシスタントは、顧客からの問い合わせに24時間365日対応できるため、顧客満足度向上に貢献します。また、AIを活用することで、顧客のニーズに合わせたパーソナライズされたサービスを提供することも可能です。
5. 新しい顧客セグメントへのアプローチ

デジタルネイティブ世代であるミレニアル世代やZ世代は、従来の金融サービスとは異なるニーズを持っています。彼らは、デジタルチャネルに精通し、モバイルファーストの生活を送っています。これらの新しい顧客セグメントにアプローチするためには、デジタルチャネルを積極的に活用し、彼らに合わせた商品やサービスを開発する必要があります。
ミレニアル世代とZ世代へのマーケティング
ミレニアル世代とZ世代は、ソーシャルメディアやモバイルアプリを通じて情報収集を行う傾向が強いため、これらのチャネルを活用したマーケティング戦略が効果的です。
インフルエンサーマーケティングやソーシャルメディア広告などを活用し、ターゲットに合わせたメッセージを配信することで、顧客エンゲージメントを高めることができます。
デジタルネイティブ向けの商品開発
デジタルネイティブ世代は、シンプルで分かりやすい金融商品を好む傾向にあります。複雑な手数料体系や分かりにくい約款などは敬遠されるため、透明性の高い商品設計が重要です。また、モバイルアプリで簡単に利用できる商品や、オンラインで完結できる商品など、デジタルチャネルに最適化された商品開発が求められます。
ライフステージに応じたアプローチ
顧客のライフステージの変化に合わせて、最適な金融商品やサービスを提案することが重要です。例えば、結婚、出産、住宅購入、教育資金準備、老後資金準備など、ライフステージに応じた金融ニーズを的確に捉え、顧客に寄り添ったサポートを提供することで、長期的な顧客関係を構築することができます。
6. 金利変動に対応した商品開発とマーケティング

金利変動は、金融商品に大きな影響を与えます。金利上昇局面では、預金商品の魅力が高まる一方で、ローン商品の需要は減少する傾向にあります。
また、投資商品のパフォーマンスも金利変動の影響を受けます。金利変動リスクに対応した商品開発、金利変動に関する情報提供など、顧客のニーズに合わせたマーケティング戦略が重要です。
変動金利商品の訴求
金利上昇局面では、変動金利商品の魅力が低下することもあるため、固定金利商品や金利リスクヘッジ商品を積極的に訴求する必要があります。顧客の金利変動リスクに対する理解を深め、最適な商品選択をサポートすることが重要です。
金利シミュレーションツールの提供
金利変動が顧客の返済額や投資収益に及ぼす影響をシミュレーションできるツールを提供することで、顧客の意思決定をサポートすることができます。顧客は、様々な金利シナリオを想定し、最適な金融商品を選択することができます。
7. ボイスマーケティングの台頭

スマートスピーカーの普及に伴い、ボイスマーケティングが注目を集めています。音声検索最適化、音声アシスタントを通じたサービス提供など、音声インターフェースを活用したマーケティング戦略が重要性を増しています。顧客は、音声で簡単に情報検索や取引を行えるため、顧客体験の向上に繋がります。
スマートスピーカーの活用
スマートスピーカーに金融機関のスキルを提供することで、顧客は音声で残高照会や送金などの金融取引を行うことができます。また、金融に関するニュースや情報を音声で聞くこともできます。
音声検索最適化(VSO)
音声検索で上位表示されるようにWebサイトやコンテンツを最適化することで、顧客からのアクセス数を増やすことができます。音声検索では、自然言語での検索が多いため、会話形式のコンテンツを作成することが重要です。
音声アシスタントを通じたサービス提供: 音声アシスタントを通じて、顧客にパーソナライズされた金融アドバイスや商品提案を行うことができます。顧客のニーズや状況に合わせて、最適な情報を提供することで、顧客満足度を高めることができます。
8. マーケティング技術(マーテック)の進化
マーケティングオートメーション、CDP、AR/VRなど、マーケティング技術は常に進化しています。これらの最新技術を活用することで、マーケティング活動を効率化し、効果を高めることができます。また、顧客データの分析やパーソナライゼーションの実現にも役立ちます。
マーケティングオートメーションの高度化
マーケティングオートメーションツールを活用することで、メール配信、Webサイトパーソナライゼーション、リードナーチャリングなど、様々なマーケティング活動を自動化することができます。これにより、マーケターはより戦略的な業務に集中することができます。
カスタマーデータプラットフォーム(CDP)の活用
CDPは、顧客データを統合管理するためのプラットフォームです。様々なソースから顧客データを収集し、統合することで、顧客の全体像を把握することができます。この情報を基に、パーソナライズされたマーケティング施策を実施することができます。
9.メガバンクの最新の取り組み

三菱UFJフィナンシャルグループ
三菱UFJフィナンシャルグループは、「世界が進むチカラになる」というパーパスを掲げ、デジタルマーケティングにおいても顧客エンゲージメント向上を重視しています。
銀行を取り巻く環境は、インターネットバンキングの普及や競争激化、プライバシー意識の高まりなど、大きく変化しています。
こうした中で、三菱UFJ銀行は、デジタル上でのコミュニケーション強化、顧客LTV向上、1st Party Data・オウンドチャネル活用促進を3本柱としたデジタルマーケティング戦略を推進しています。
2021年4月、デジタルマーケティング専担組織「データ・マーケティング室」を設立し、顧客視点での意思決定体制を構築しました。
顧客エンゲージメント向上のため、NPSをベースとしたエンゲージメント指標を設定し、顧客ニーズを把握。ホームページやEメールでの情報提供の重要性を認識しました。
また、WebセミナーやSNSを活用したコンテンツマーケティング、顧客一人ひとりに合わせたOne to Oneコミュニケーション、そして新規事業として広告事業を展開しています。
<具体的な施策事例>
コンテンツマーケティング: コラムサイト「アップユー」のリニューアル、Webセミナーの開催、インスタグラムの活用などにより、幅広い層への情報提供と顧客とのエンゲージメント強化を図っています。
One to Oneコミュニケーション: 機械学習などを活用し、顧客一人ひとりに最適なタイミングで必要な情報を提供することで、顧客行動の変容を促進しています。
広告事業: 銀行の持つ信頼性の高いデータを活用した広告配信事業「Bank Ads」を開始し、収益の多様化を図っています。
次期中計では、グループ総合力の発揮、デジタルとリアル・リモートとの融合、データ利活用の更なる高度化を課題として、顧客体験の進化を目指します。
三菱UFJ銀行は、デジタルマーケティングを通じて、顧客とのエンゲージメントを強化し、「世界が進むチカラになる」というパーパスを実現していきます。
三井住友フィナンシャルグループ
三井住友フィナンシャルグループは、顧客ニーズの多様化に対応するため、電通グループと合弁会社SMBCデジタルマーケティングを設立しました。
SMBCデジタルマーケティングでは、主に三井住友銀行の顧客データを活用したオウンドメディア(アプリ広告・Eメール広告・ダイレクトメール広告)による効率的な広告配信を行っています。
また、電通グループやSMBC自社の知見を活用し、検索連動型広告・SNS広告・動画広告、さらには非デジタル分野の広告まで、幅広いニーズに対応するマーケティング支援も提供しています。
金融×デジタルマーケティングにより、金融サービスに新しい顧客体験をプラスし、新たな顧客価値を提供することを目指し、新サービスの開発も行っています。
参照:DX-Link「SMBCデジタルマーケティング」
みずほフィナンシャルグループ
みずほフィナンシャルグループは、顧客満足度向上のため、Google Cloudを活用した「ハイパー・パーソナライズド・マーケティング」を推進しています。
これは、顧客のデジタル上での行動や属性情報などを基に、一人ひとりに最適な情報やサービスを、最適なタイミングで提供する取り組みです。
具体的には、Google Cloud上にデジタルマーケティング基盤を構築し、顧客データを統合・分析することで、パーソナライズされたコミュニケーションを実現します。さらに、顧客の声を収集・分析する仕組みも導入し、ニーズ把握と課題解決を強化しています。
これにより、ウェブサイトやメールなどオンラインチャネルだけでなく、店舗などのオフラインチャネルにおいても、顧客一人ひとりに最適化されたサービス提供を目指しています。
みずほは、この取り組みを通じて顧客体験を向上させ、「国内で最も信用される金融機関」となることを目指しています。
参照:MIZUHO DX「Google Cloudを活用した〈みずほ〉の新たな取り組み。
まとめ:金融機関のマーケティングの未来

金融機関のマーケティングは、デジタル化、金利正常化、顧客ニーズの多様化など、様々な変化に直面しています。これらの変化に対応するためには、顧客中心主義を徹底し、テクノロジーと人間味のバランスを取りながら、柔軟なマーケティング戦略を展開していく必要があります。
顧客理解を深め、パーソナライズされたサービスを提供することで、顧客満足度を高め、長期的な関係を構築することが重要です。データ分析、AI、マーテックなどを活用し、効率的かつ効果的なマーケティング活動を実践することで、競争優位性を築くことができます。顧客一人ひとりのニーズや行動を理解し、最適なタイミングで最適な情報を提供することで、顧客とのエンゲージメントを深め、ロイヤリティを高めることができます。
金融マーケティングの未来は、テクノロジーの進化、顧客ニーズの変化、そして経済環境の変動によって大きく左右されます。これらの変化を的確に捉え、迅速かつ柔軟に対応していくことが、金融機関のマーケティング成功の鍵となります。
具体的には、以下の点が重要になります。
施策 | 目的 |
データドリブンマーケティングの高度化 | 顧客データの活用による顧客体験向上とコンバージョン率の向上 |
AIと機械学習の活用 | マーケティング活動の効率化と効果向上 |
モバイルファースト戦略の強化 | モバイルチャネルの活用による顧客接点の強化 |
オムニチャネル戦略の最適化 | 一貫したブランド体験の提供 |
コンテンツマーケティングの強化 | 信頼性向上とブランドイメージ向上、リード獲得 |
ソーシャルメディアマーケティングの進化 | 顧客エンゲージメントの向上とブランド認知度の向上 |
フィンテック企業との協業 | 顧客体験の向上と新規顧客の獲得 |
これらのトレンドを踏まえ、金融機関は自社の強み弱みを分析し、最適なマーケティング戦略を策定する必要があります。変化の激しい時代だからこそ、柔軟性とスピード感を持って、新たな取り組みに挑戦していくことが重要です。
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